ほしのほんだな

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【录入】仮面ライダーW・フォーエバーAtoZ/運命のガイアメモリ Nのはじまり/血と夢

刊载在东映HERO MAX Vol.34上的小说。网路上有翻译,不过作为原文派还是敲下来了(杂上的字实在太小看得眼睛疼)时间紧敲得比较仓促,估计错误不少orz校对什么的之后再做= =
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仮面ライダーW・フォーエバーAtoZ/運命のガイアメモリ 
Nのはじまり/血と夢

執筆:田嶋秀樹(石森プロ)
監修:三条陸
录入:vega
【禁止任何形式转载】

and in the end the love you take
is equal to the love you make...

訳詞
そして結局、君が受ける愛は、
君がもたらす愛に等しい

<The Beatles【The End】>

■承前

「克己!克己ィ!目をあけて!」
どんなに呼びかけても、その少年が再び目を開けることはなかった。届かない女の叫びと嗚咽。白い病室の時計が、無表情に時を刻みながらそれを見下ろしていた。先ほど医師が告げた死亡確認の言葉も、そこに至る事故のことも、目の前に横たわる冷たい息子の亡骸も、彼女はそのすべてを否定した。
「こんなこと、こんなこと信じない。絶対に、認めない!」
美樹はなにかを決意し、バッグから携帯を抜いた。絶対にかける事のなかった、あのナンバーにコールするために。

×  ×  ×

大道美樹は、遺伝子学を専門とする研究者だった。桁はずれた明晰な頭脳は、風都工科大学の研究室の同僚たちから「生体コンピュータ」と呼ばれるほどの才女であったし、同時に、その美しい容姿や誰からも愛される人望に、天は二物をあたえたと周囲は彼女を大きく讃え、羨望の目を向けた。だが、すべてが完璧だと思われていた彼女にも、対峙する辛い現実があった。
美樹には生まれつき心臓を病む息子、克己がいた。シングルマザーである彼女は、余命を宣告された我が子を、一日でも一秒でも生きながらえさせるために、男性職員の何倍もひたすらに働いた。高額な医療費も、働きづめで息子との時間がほとんどとれないことも、週に一度「かあさん」と笑いかけてくれる息子の笑顔さえ見られれば大した重荷にはならなかった。働けばいい。働けば働いただけ、この子を延命できる。美樹はそう信じていた。もう長くないだって?嘘に決まっている。だってこの子は半年の余命宣告を受けてから、もう3年も生きているじゃないか。それが本当だって言うのなら、この太陽の様な笑顔はなんだというのだ。これが命の灯が消えゆく子の顔に見えるものか。残酷な現実を視界から外し、美樹は克己との未来をつなぐために、ただひたすらに、働いた。

そんな美樹のもとに、待ちわびた一報が舞い込んだ。昨年風都で開催された世界先進医療シンポジウムで知り合って以来意気投合し、まるで昔からの友の様に親しくしていた、ミシシッピー大学病院のドクター・ロバートからだ。克己の心臓移植に関して、まさにパーフェクトな準備が整ったというのだ。ドクター・ロバートは心臓医学にかけては世界的な権威だ。美樹の全身に電流の様なものがかけめぐり、次の瞬間には奇声をあげ、少女の様に飛び跳ねて歓喜した。
「克己が、助かるんですね!ドクターロバート!」
「Yes, of course」
携帯を切った美樹は、研究室の窓を思い切り開け放った。いつもの街路樹も、道行く人々も、ゆっくりと翼を回す風都タワーも、その見なれた風景すべてがきらきらと輝いて見えた。克己が助かるのだ!克己と一緒に、この風都で生きていけるのだ。
「神様、この奇跡を、ありがとうございます」
美樹は、今まで一度だって信じたことのない神に、はじめて感謝の言葉をなげかけた。未来を重く閉ざした鉄の扉が、今ゆっくりと開こうとしている。そんな気分だった。

■克己

その日美樹は、克己を連れて病院近くの楓が丘公園に来ていた。小さな頃から彼が一番好きな場所だ。風都港が見下ろせる小高い丘のベンチで、美樹は克己に、心臓移植の話をはじめた。かあさんの友達が、克己の悪い心臓をいい心臓にとりかえてくれる。ゆっくりと丁寧に説明する美樹の話を、克己は一生懸命に、ひとつひとつ頷きながら聞いた。
「心臓を入れ替えるなんてちょっと怖いけど、かあさんとずっと一緒にいられるんだったら僕、がんばるよ!うん、がんばる!」
克己はそう言って目を輝かせた。美樹が何よりも大切にしている宝物。美樹だけの太陽だ。
「明日のかあさんの誕生日、一時退院できるんだよね!ひさしぶりだなぁ、家で過ごすなんて。来月はアメリカかぁ。アメリカの病院に行ったら病気治るんだよね。治って帰ってきたら、またピアノ、弾けるよね!そしたらさ、またあそこでやりたい。風都オーチャードホール!そこでね、かあさんが好きなあの曲をやるんだ!しばらく弾いてないけど、病気が治ったら、ガンガン練習するよ。今までの分、とりかえすんだ!」
克己は音楽が好きな子だった。今の様に入院生活を送ることになるまでは、月に一度行われる発表会を他のなによりも楽しみにしていた。中でもピアノが大好きで、気がつけば一日中弾いている。自称、風都の小さなモーツァルト。克己はベンチの手すりを鍵盤がわりに叩きながら、お気に入りの旋律を鼻で歌い始めた。美樹もその曲が大好きだった。幸せだったあの日々が、またもう一度やってくるんだ。美樹は克己を、衝動的に抱きしめていた。折れるほどに強く強く。そしてとめどなく、涙が溢れてきた。
「どうして泣くの?」
「いい、曲だね」
そう言うのが今の美樹には精一杯だった。胸が一杯で続く言葉が出てこないのだ。止まらない涙。ただ確かなことは、その涙は今までの様な悲しみの涙ではないということだ。
「そうだ!かあさん、明日の誕生日、僕がかあさんの大学まで迎えに行くよ!」
この子はいきなり何を言い出すのだろう?
あまりに唐突な克己の言葉に、美樹は戸惑いを隠せなかった。しかし克己は、一時でも退院できることが嬉しくてしかたないという。無理もない。克己はこの16年の人生のほとんどを、病室の天井を見て過ごしてきたのだ。明日の美樹の誕生日は、この風都を自分の足で歩いて、かあさんを迎えに行く。そう言ってきかない。
「だめよ。まだ治ったわけじゃないし、危ないわ」
「大丈夫だよ!ちょっと寄る所があるんだ。かあさんへのプレゼント。ずっと前に頼んだやつ、とりに行くんだ。こないだの一時退院の時からもう1年くらい経っちゃてるし…」
「ええ?なんだろう?」
「内緒。今回のは自信があるんだ。へへ、きっと気に入るよ。かあさん。ボク、これでもセンスいい方なんだ」
笑い合う親子を黄昏が包んでいく。公園をはじる風都のやわらかな風が、やさしく二人の親子の頬をなでて、とおり過ぎていった。

■落陽

誕生日当日。美樹は朝から気持ちが落ち着かなかった。克己が自分を迎えにくるというのだ。道に迷ったりしないか。急に具合が悪くなって倒れたりしないだろうか。もし万が一、何かあったら…。
そわそわと落ち着かない美樹に、恩師である片桐教授が笑う。
「ちょっと早いですが、今日はもういいですよ。行っておあげなさい」
心を見透かされた恥ずかしさよりも、ここは甘えてしまおうという気持ちが勝ちだった。
「ありがとうございます!お先に失礼します!」
美樹はそそくさと身支度を済ませ研究室を飛び出すと、約束の時間の30分も前に大学の正門前に立った。克己の病院からは風都駅四口行きのバスに乗って、七つめの風都工科大学バイオテックセンター前で降りる。昨日公園でくどいほどに説明した。はじめて一人で街を歩くのだ。不安ではじけそうな親心を知ってか知らずか、克己はメモをとりながら、わかったわかったと笑っていた。
長い長い30分のあいだ、何度腕の時計を覗きこんだだろう。時計の針がこんなにも重いなんて。いつもならまるでゼンマイがほどける様にあっという間に回りきってしまうのに。美樹はそう思いながら、また腕時計を覗き込んでいた。
「かあさん!」
正門前の中央大通り。その横断歩道の向こう側で、克己が大きく手を振っていた。時計の針を追いかけていて、肝心の克己が到着したことに気がつかなかったのだ。美樹は苦笑し、手を振るわが子に負けず、大きく手を振り返した。赤く灯る信号がじれったい。ここの信号がいつもこうなのだ。この長信号のおかげで何度遅刻のピンチにさらされたことか。
信号が緑を灯した瞬間に、横断する人々の先頭をきって克己が走り出した。こんなに元気に走る息子の姿をはじめて見た。太陽だ。本当にこの子は、私の太陽なんだ!
「克己!」
美樹は、かけて来る眩い太陽を抱きとめようと、大きく両手を広げた。
その時——!
強引に赤信号を右折して来た軽ワゴンが、克己の姿をさらって行った。一瞬の出来事だった。横たわる克己と、その脇に転がる克己のバッグ。そこからこぼれた小さな包み。「轢き逃げだ!」「救急車!」などと叫ぶ人の声。騒然となる大通りに立ち尽くした美樹は、たったひとつの太陽が消えた瞬間を、しばらく理解することができなかった。

■消えた、命

風都総合病院のERに克己が運び込まれたのは、それから30分後のことだった。ストレッチャーで運ばれる克己にすがりながら、必死の形相で呼びかける美樹。
「さがってください!息子さんは極めて重篤な状態です!」
救命士の言葉に次の言葉を失い、立ち止まった美樹を一人残して、克己を乗せたストレッチャーはオペ室の向こうへ吸い込まれていった。
「克…己…」
灯る「手術中」のランプを見上げ、美樹はその場に崩れ落ちた。

×  ×  ×

それからどれくらいの時間が経ったのだろう。身動きがとれないような重い時間が、美樹の身体にのしかかっていた。
押しつぶされてしまいそうな時の重りの下で、美樹は克己の持ち物の中にあった小さな包みを手にとった。愛おしそうに、その包みをほどいていく。中には、小さなオルゴールが入っていた。
「オルゴール…」
ノブをゆっくりと回してみる。掌に収まり美しい旋律を、静かに奏ではじめた。克己が発表会で演奏した、あの曲だ。
「克己…私へのプレゼントって…」
克己は、美樹が好きだと言っていたあの曲をオルゴールにして、美樹に贈ろうとしていたのだ。
「私は…なんで…克己、克己!」
オペ室の廊下には、美樹の嗚咽と、美しいオルゴールの旋律がただ静かに流れていた。

×  ×  ×

数時間後——。
「最善を尽くしましたが…残念です」
腕時計を見て、死亡時刻を告げる執刀医。あらゆる手を尽くしたという数々の蘇生術も空しく、克己はそのまま、天に召されていった。ほとんど即死と言ってもいい状態だったらしい。この日、美樹の誕生日が、最愛の息子の命日となってしまった。こんな残酷な誕生日プレゼントがあるものか。
「こんな…こんなことって…冗談でしょ?ねぇ、克己?起きなさい。かあさんのお誕生日、お祝いしてくれるんでしょ!?」
どんなに呼び掛けても、閉じられた克己の目が、再び開かれることはなかった。やり場のない怒りと、おさまらない動揺。目の前で起きていることがまるで理解できない。
「克己が死んだって?バカな事いわないでよ。来月渡米してロバートのオペを受けるの!それで治って、風都のホールでピアノを聴かせてくれるって…克己、聞いてるの?起きなさい!起きなさいよ克己!いいかげんにしないと、かあさん怒るから…」
何度もくりかえされる呼び掛けは空をきり、止まった時が、無表情のまま、二人を包んでいた。

×  ×  ×

あれからどれくらいの時が過ぎたのだろう。何度もドアを叩く音がした気がする。警察とか、聴取だとか、司法解剖がどうとか。
そんな事は知った事じゃない。今はどこの誰にも克己は触らせたくないんだ。冗談じゃない。私の克己に、私の太陽に、触るな!
直後、美樹は何かを決意した。バッグから携帯を抜き、一枚のカードに書かれた番号にコールする。今まで一度だってかけようと思わなかった、あの番号だ。
「克己のあの笑顔をもう一度見られるのならば、悪魔とだって契約を交わしてやる」
美樹は電話口の向こうに、これまでの経緯、そしてこれからどうすべきかを淡々と告げた。涙なんて、とうに枯れていた。

■堕ちる人

「お待ちしておりました。すべてのバックアップは我が財団Xにお任せください。あなたには非常に大きな投資価値がある。財団のトップは、そう判断されています。」
電話を切った後、思わず笑いがこみあげてきた。乾いた笑い。
「投資対象候補、か。まさに私は悪魔に魂を売った、ということね」

×  ×  ×

電話の男の予告通り、きっかり1時間後に組織のエージェントが現れた。全身を白いスーツで固めたその男たちは、てきぱきと完成された段取りで克己の亡骸を特殊なケースに収めていく。その中の一人の男が言った。
「大道博士。あなたは正しいご決断をされた。わが財団はあなたに大きな期待を寄せています。さあ、こちらに」
美樹は、まるで自動音声のような抑揚のない男の指示を従い、病院の地下ガレージに用意されたリムジンに、無表情のまま乗りこんだ。

×  ×  ×

どんなルードで、どれだけの時間を費やしてそこにたどり着いたのか、ガスを嗅がされ眠りについていた美樹にはわからなかった。目が覚めたときには、すでにそこにいた。<財団X>が所持する研究棟の、地下ラボラトリーである。窓が無く薄暗い、ひんやりと冷気の漂うその部屋で、今までどれだけの、どんな研究や実験が行われてきたのか。わずかに香るさまざまな薬品と生物の体液と思しき匂い。こみあげる嘔吐感をこらえながら、美樹は部屋の機材や薬品をひとつひとつ確認していく。大学の研究室とは比較にならないほどの環境が、そこにあった。
まだ実験階段のメディカル機器や、正規のルートでは絶対に手に入らない薬剤の数々。あの研究を実行するためには、十分すぎる環境だ。今の気持ちとは関係なしに現れる、隠しきれない興奮。美樹は滲みついてしまった科学者としての性に、怖気さえ感じていた。

×  ×  ×

<死亡確定個体複還術>…それは、投薬とクローニングによって、命無きものをまるで生前の様に再生する技術のことだ。人の死亡後に雪崩式に壊死していく体細胞の崩壊を食い止め、死亡確定以前の状態に復元、それを維持し、固定する。猿を使用しての生体実験はすでに6割の確率で成功していたが、人間の亡骸を使用しての臨床実験は未だ行われていない。それはそうだ。この様な反社会的な行為に、誰が検体を提供するというのだ。材料を要求する事自体がばかげている。この理論を生んだ美樹自身が、そう思っていた。
この技術はあくまでも<蘇生>ではない。肉体の<再生>だ。これによって再生した人間は、人間であって人間ではない。生ける屍。そう呼ぶにふさわしい「物」である。
理論の完成。生体実験の成功。そして人体を使用しての実験に進もうかというときに、美樹は激しく葛藤した。この一線を越えてしまったら、自分はもう後戻りできなくなってしまうだろう。

10年前、美樹は仲間と秘密裏にこの研究に打ち込んでいた。が、最終段階である人体実験に移る際に、仲間と協議の末にこの研究の凍結を決定した。人が神の領域に立ち入ることなどが許されるはずがない。人の勝手な都合で、旅立った者をよび戻すなど、してはならる行為なのだ。研究の完成を目前に控えながら、やはり仲間たちも同意見だった。人が人たり得る境界線の前で、皆踏みとどまってくれたのだ。
ただ、研究室の御手洗教授、アイツが、<財団X>を名乗る謎の投資組織へ高額な報酬と引き換えにこの研究の概要をリークしてしまったのだ。なんという裏切り行為だろう。しかし問い詰めるにも、あれ以来御手洗教授の姿を見た者はだれもいない。大金を手に入れて外国にでも逃げたのか、或いは…組織とかかわって、今生きているのか。
美樹の研究は、財団Xの最も興味深い投資対象のひとつに選定されたらしい。それから10年もの間、美樹は幾度の訪れる財団Xの使いの影に怯えながら暮らした。時には脅迫めいた接触もあったが、美樹は断固として<死亡確定個体複還術>完成への協力を拒否し続けた。元は、明日にも命が消えるかもしれない息子の、来るべきその時のために思いつき、始めた研究だった。しかし、それが成功したとしても、蘇った息子は、「息子のかたち」をしたものにすぎない。それ以前に、人として踏み込んではいけない部分には絶対に触れてはならないのだ。自分は神ではない。そう思っていた。あの忌まわしい事故さえ起きなければ――。
そこに命が無くてもいい。人のかたちをして触れる克己に、そこにいてほしい。それが克己であれば、そのかたちがどうであれ、構わない。願わくばもう一度、「かあさん」と、あの笑顔で笑いかけて欲しい。人としてなんて、そんななりふりに構ってはいられないのだ。美樹は、躊躇わずに、克己を「複還」するための準備にとりかかった。

■NECRO·OVER

「ここは…僕は、眠っていたの…?」
「克己ッ!」
処置台から起き上がった我が子を抱きしめる美樹。とめどなく流れる涙。美樹は、何度も、何度も、息子の名を呼び続けた。あの日の様に、折れるほどに強く、抱き締めて泣いた。実験は成功し、<死亡確定個体複還術>は完成した。
克己はなみも覚えていなかった。あの時道路の向こうで手を振っていた美樹の姿。そこから先のことを、まるで覚えていなかった。
「そうよ。よく眠っていたわ」
美樹には、それしか言えなかった。死んでいたのだから当然だなどと、言える筈もない。言ったところで、その事実を今現にここに存在する克己が信じる筈もないだろう。

再会を喜ぶのもつかの間、突如財団のエージェントが研究室に立ち入ってきた。白服の男は懐から銃を抜き、そのマズルを克己の額に向けた。
「成果を確認しよう」
悲鳴をあげてそれを阻止しようとする美樹。だが、美樹が声をあげるのとほぼ同時に、男の指先はトリガーを引いていた。
「パン!!」という乾いた炸裂音と共に、眉間を撃ち抜かれる克己。後方に飛び散る血液と脳漿。倒れる克己。美樹の絶叫。
「be quiet! お静かに」
凍りついた空気の中、漂う硝煙の匂い。男はゆっくりと銃を懐に収め、腕を組んで倒れた克己を見つめる。
「ああ…びっくりした。なにすンだよオジサン」
克己はむっくりと立ち上がると、まるで虫さされをかくかの様に額をさする。すると、そこに開いた銃痕が、みるみる塞がっていった。
「Congratulation! 実験は成功の様です」
拍手しながら現れた銀髪の外国人。財団Xのトップエージェント、キース=アンダーソンだ。
「おめでとう大道博士。あなたはこの瞬間、最も神に近付いた女性になった。実に喜ばしきことです」
力を失い、その場に崩れ落ちる美樹。克己はなにが起こったのか理解できず、きょとんとキースを見つめている。
「命などもつから人間には限界が生まれる。進化の遅延になる。命を持たない人間こそが、この世で最強の生物。いや、死んでいるのだから、生物という言い方もおかしいですね。ややこしい話です」
「私は…私は…とりかえしのつかないことを…してしまったの…?」
わかってはいた。これが美樹が生み出した研究の答えだ。死んでしまったわが子を呼びもどすためとはいえ、美樹は、とうとうその一線を越えてしまったのだ。
「大道克己君。君はこの瞬間から死を超えるもの…ネクロオーバーとして、第二の生をうけた。いや、正確に言えば生ではありませんが」
「なにを言っているのかわからないよ。ねぇかあさん、このおじさん大丈夫かな?」
笑って美樹を見る克己の視線の先には、自分を抱きしめ、震えている美樹の姿があった。キースは克己の頭をなで、満面の笑みで語りはじめる。
「わかりませんか?まあ無理もありません。一度天に召されたものが、ふたたびこの世に戻る事は決して許されることではない。しかし君は違う。エターナル…永遠を手にしたのですよ君は。ネクロオーバーになるとはそういう事です」
美樹の震えは、おさまることを知らなかった。自分の息子を手にかけて、人ならざるものをつい造り出してしまったのだ。
「大道博士。私たち財団は、あなたの研究成果をもっともっと昇華させたい。死なない人間ほど、世界が欲しているものはないのです。世界は、更なる発展のためにもっともっと血を流したいと欲している。不死の人間。不死の兵士。ネクロオーバーは史上最高のウォービジネスになりえる極めて貴重な存在です。この世界の未来を紡ぐ、大きなる可能性を秘めているのですよ」
「私は、私は…」
美樹は止まらぬ震えの中で、背負ってしまった十字架の重さを、全身で感じていた。
キースは、理解できずにきょとんとしている克己の頭を撫でると、無感情な微笑みを残し、静かに部屋を出ていった。

■プレゼンテーション

ネクロオーバーとなった克己は、美樹から成長の施術をほどこされ、逞しい大人の男に成長していった。ネクロオーバーの更なる研究実験の間、平行で進めていたもうひとつの課題であるクローニング技術の昇華。壊死していく克己の細胞に対し、足りない分の細胞組織を強制的に分離増殖させていく。自分の力で成長できないネクロオーバーを、外部の力をもって擬似的に成長させるのだ。美樹は克己の誕生日に、その歳に見合ったクローニング処置を施すことで、彼を大人へと成長させていった。
「成長する屍体とは、実に面白い趣向です。さすがは大道博士」
「だって、子供は大きくなるものなのですよ。キース」
ネクロオーバーは本来が屍体であるが故に、育つことはない。子供の亡骸を使えば永遠に子供のまま、なのである。それでも克己に成長の処置を行い続けたのは、美樹の親心そのものだったのだろう。キースは克己の成長に合わせ、「最高の商品」を仕上げるために、過酷な訓練プログラムを組み、実行していった。彼曰く、「英才教育」なのだそうだ。
訪れる日々は、まるで放たれた矢の様なスピードで飛び去っていった。10年以上もの時間が、まるで1、2年のことの様に美樹には感じられた。そして、来るべき日がやってきた。

×  ×  ×

過酷な訓練を経て完成された戦士となった克己は、美樹と共にとある地下施設に召喚された。財団Xのプレゼンテーションルームである。周囲と一切遮断された、無機質な白い檻ともいうべき大広間だ。部屋の向こうには、財団のトップたちがずらりと顔を揃えている。
「大道博士。このプレゼンに勝利すれば、あなたは財団からこれまで以上の莫大な援助を受けることができます。ネクロオーバーの更なる研究も、財団の持つ無尽蔵の資金と世界に張り巡らされた巨大なネットワークを使い、更に昇華させることができるのです。我々の崇高なる計画がまた一歩、ゴールに近づくのですよ」
目を合わさず、無表情のキースの話を聞き流す美樹。なにが我々の、だ。薄汚い守銭奴め。
「わかりました。我々のネクロオーバーは完璧です。敗ける理由がありません」
美樹は、表の顔でキースに言葉を返した。
向かい側のブースから、色眼鏡をかけた男がこちらを見て微笑んでいる。<Museum>と名乗る組織の頭首、園咲琉兵衛だ。彼の専攻は考古学らしいが、そんなものに財団が興味を持つとは思えない。一体どんなものを出してくるのか。私のネクロオーバーを凌ぐような、そんなものがこの世に存在するのか?
「私のネクロオーバー」…そんな言葉が脳裏に浮かんだ時、美樹は苦笑した。とうとう自分は本物の鬼に成り果ててしまったのか、と。
プレゼンテーションは美樹の側から行われた。実験体は勿論克己である。向けられた無数の機銃や鉄球弾の前に、身じろぎもせず、克己は立っている。そればかりか、口元には笑みさえ浮かべていた。
「さあ、早いとこ片付けて撤収しようぜ、プロフェッサー」
複雑な表情で克己を見つめる美樹。克己は美樹のことを、もう「かあさん」と呼んでくれなかった。自分が既に死者であり、かたちだけが復元したまがい物の人間であることを知ってしまったあの日から、克己は変わりはじめた。死んでいるのにここにいる。自分という存在の意味を問い続け、答えの出ないまま、ここまで来てしまった。毎日繰り返される訓練という名の人殺しの練習。キースから強いられたこの訓練も、今ではすっかり生活の一部である。克己にとって訓練とは、呼吸をし、食事をとり、排泄する。それくらい当たり前のことになっていた。ネクロオーバーとして蘇り財団のラボで過ごした年月は、克己の人格を変貌させるには充分すぎた。美樹が好きだったあの太陽の様な笑顔は、もうどこにもない。

美樹の合図と共に、克己を取り囲んだ銃器から一斉に数千発の弾丸が放たれた。凄まじい炸裂音と硝煙の匂いが立ち込め、克己を包み込んだ。しかし克己は身じろぎもせず、自らの身体を貫通していく弾丸を横目で見ながら笑みを浮かべ、そこに立ち続けた。
「もう撃ち止めかい?大事なお披露目の場だろう。けちけちすんなよ財団のみなさん!」
財団側からあがる感嘆の声。キースから上層部に提示されたプレゼンシートの、「不死の兵士」の文句に嘘はなかった。どよめいていた財団の白装束の男たちが、一斉に耳打ちを始める。余裕の笑みを浮かべ、琉兵衛にウインクを送る克己。
「勝負するまでもありません。わざわざ遠くからご足労なお話でしたね、園咲さん。そして加頭くん!」
琉兵衛の脇に立っていた財団の男、加頭順が、持っていたペンを落とす。
「ご大層なお言葉をありがとうございますミスターキース。しかし、勝敗の判断をするのはあなたでは無い」
苛立ちを浮かべる加頭を制するかの様に、琉兵衛は高らかに笑い、満面の笑みで拍手をした。
「いやいや、素晴らしいよ大道博士。確かに見世物としては一級品だ」
「見世物…ネクロオーバーを見世物とおっしゃる」
能面の様なキースの顔が、はじめて曇った。そんなキースを見ながら、更に琉兵衛は苦笑する。
「勝利を確信するのは、我々のガイアメモリをごらんになってからでも遅くはないいでしょう」
自信に満ち溢れた琉兵衛の顔と余裕に、美樹は戦慄した。この考古学者ふぜいが何を用意してきたというのだ。
「ガイア、ですか。原初神を名乗るとはまた大きく出ましたね。見せて頂きましょう。そのガイアメモリとやらを」
微笑んだ琉兵衛が指を鳴らすと、配下である3名の裸の男女が現れた。彼らは各々が骨の様なかたちの小さなデバイスを手にし、部屋の中央に向かう。琉兵衛は、余裕うのパフォーマンスであるのか、大きなジェスチャーを交え、財団トップたちに商品の説明を始めた。
「財団Xのみなさま。我々が本日ご用意致しましたのは、地球の記憶をつめこんだ、小さなパンドラの箱です。しかしそこからあふれるパワーは、とてもこの小さな箱に収まるものではない。まずは、デモンストレーションをごらんなさい」
3人の男女は、それぞれの手の中にあるガイアメモリを財団の男たちに掲げ、一斉にそれを生体コネクタに押し当てた。
「アンモナイト!」「トリロバイト!」「マンモス!」
メモリは彼らの身体の中に吸い込まれる様にインサートされ、古生物を思わせる様な、異形の姿に変えていった。感嘆する財団のトップたち。琉兵衛が合図をすると、先ほど克己を銃撃した機銃から一斉に異形の者たちに砲火が開始される。しかし放たれた弾丸は貫通するどころか弾き返され、蒸発し、弾の軌道そのものが大きく捻じ曲げられてしまった。止まらぬ銃撃をものともせず、メモリの怪物たちは、その人智を超越した腕力や光弾ですべての機銃をおもちゃを壊すがごとく、ひとつのこらず破壊してしまった。
メモリによって噴出する殺意とアドレナリンを抑えきれない怪物たちは、そのまま財団トップたちが座るテーブルへ牙を向けた。叫喚する財団の男たち。その瞬間、琉兵衛が指を鳴らすと、怪物たちの身体からメモリが次々と排出され、フロアの上でブレイクした。メモリを強制排出された怪物たちは元の人間に戻り、その場に崩れ落ちてしまう。
「実験体が失礼を致しました。今見て頂いたものが、私たちが<ドーパント>と呼んでいる超人です。ガイアメモリは、地球の記憶から生成したプログラムを人体に作用させ、人智を超えた超人を作り出す夢の端末なのです。いかがですかな?まだ実験段階ではありますが」
目の前に起こった状況に立ちすくんでいた財団トップたちから、やがて喝采が巻き起こる。満面の笑みを加頭に投げかける琉兵衛。加頭は無表情のまま、喝采を続けるトップたちの姿を見入っている。
「君は本当に愛想が無い男だな。プレゼンに勝ったんだ。もう少し喜んだらどうかね」
高らかに笑う琉兵衛の姿に、美樹は、自分の無力さを思い知った。同時に、こんな見世物のために、わが子を実験台にした自分を、今すぐこの世から消してしまいたい気持ちに苛まれていた。

■修羅の彼方へ

財団Xの本投資対象が<Museum>に決定した、という通知が美樹の元に届いたのはそれから三週間後のことであった。琉兵衛のガイアメモリに破れたネクロオーバー計画は、即座に資金援助を打ち切られた後に凍結。機密保持のため、財団は美樹に克己の処分を命令した。ラボの中で克己を抱き震えている美樹を、キースは氷の目で見つめている。
「どんな怪物になろうとも、克己は私の息子です!わが子を殺めろと言うのですか!」
「殺めるもなにも、すでに死んでいるでしょうその男は。やむを得ません。強行いたします」
キースが合図をすると、過剰な人数の処理班がラボに現れ、美樹と克己に一斉に銃を向けた。
「担当者である私自信が、処分を決行致します。大道博士、投資対象から外れてしまった以上、我が財団の存在を知るあなたも処分の例外ではないのですよ。親子仲良く。私から最初で最後の、せめてもの贈り物です」
キースが発砲の手を上げようとした時、克己が不敵に笑みを浮かべ、美樹の前に立ち上がった。
「おやおや、自分たちが生み出したものの意味がわかってないようだな。そんなものでネクロオーバーが倒せるとでも?」
笑みを浮かべながら一歩一歩前進していく克己。処理班が一斉に発砲する。しかし不死の傭兵である彼に通用するはずもなく、ほんの一分も満たない間に、処理班の兵士たちは自らの血溜まりに沈んでいた。
「ばかが!これで地獄に帰りなさい!屍が!」
ただ一人残ったキースが細胞分解酵素銃を克己に向けた。トリガーが引かれるよりも早く、克己は超越したスピードでキースの背後に回りこみ、その喉をかき切っていた。
「あんたの訓練のおかげで命拾いしたよ」

×  ×  ×

沈黙したラボの中で、二人きりとなった親子。克己はむせ返るような血の海の中で、こう言った。
「これが、死体のあるべき姿だよな」
無表情で息子の背中を見つめる美樹。なにも言葉が出てこない。
「なあ…オレ、ダチが欲しいんだ。オレと同じ種類のダチがさ…こんなすぐに死んじまわない、強いダチがさ」
やはり、克己はあのまま眠らせておくべきだったのかもしれない。しかし、あの時の自分に克己が死んだという現実を受け止められるはずがなかった。それはきっと今も、だ。
どんなかたちであれ、克己は現にここにいる。どんなかたちであれ、一緒にいられるのだ。克己が求めるものは、すべて与えよう。彼が自分の存在をそれで確認できるのであれば、私はどんなことでもしてあげよう。あのまま克己を死なせてやれなかった罪は、克己の求めるものを与えて、克己の心を満たしてあげることで償う。それで罪が拭えるとは思っていないが、今の美樹に出来ることは、それ以外になかったのだ。

×  ×  ×

財団のラボから脱出して数ヶ月。美樹は極秘に地下ラボを構え、息子の「友達」を作る作業に明け暮れた。克己がどこからか調達してきた男女4人の屍を使用し、新たなネクロオーバーを作り上げていく。泉京水、羽原レイカ、葦原賢、堂本剛三。彼らがそれぞれ生前に名乗っていた名前。素性は、良くわからない。克己はあれから夜な夜な出かけては、一人づつ、命なき「仲間たち」を連れてきた。どんな手段で彼らを連れてきたのか、美樹にはもはやそれを問う気持ちも持てなかった。克己がおともだちを連れてきた。ただ、それだけのことだ。そう自分に言い聞かせていた。そしてまた矢の如く、年月が過ぎ去った。

■NEVERの世界

「克己ちゃん!見て見て!こんなのどうかしら!かなりイケてると思うんだけど!」
京水が漆黒のスーツに身を包み、克己の前でくるりとターンを決める。その背中には、林檎を突き刺した剣、そしてそれを取り巻く四匹の蛇がいる。
「これは禁断の実。それを刺す剣が克己ちゃん。そのまわりを取り巻く蛇があたしたち。一度は死んだあたしたち。でも克己ちゃんが禁断の実をくれたおかげで、あたしたちは、今ここにいるの。克己ちゃんという剣を中心に、これからあたしたちが世界を変えるのよ!新たなる人類、NEVERの世界に!」
「フフ、悪くない。いい看板だ」
克己は4人のネクロオーバーたちを率い、特殊傭兵部隊<NEVER>を結成した。<NEVER>とは、NECRO·OVERの略した言葉である。不死身の、<NEVER>は、世界各国で100%ミッションを成功させる奇跡の戦闘部隊として、軍やテロリストグループたちの間でその名を馳せていった。傭兵活動で得た莫大な報酬は、この先に遂行する偉大なる計画のために必要な資金だ。もはや財団の資金援助など必要としないほどの潤沢な金を手にした彼らであったが、計画を遂行にはまだまだ、金がいる。あとほんの湖一杯分ほどの血を流せば、その計画は実行できる。真のネクロオーバー計画。この世の人間すべてを生ける屍に変えるのだ。世界がすべてネクロオーバーになり、それが当たり前の世界になれば、俺たちは怪物などとは呼ばれない。人類みな、兄弟だ。
「命などというものに振り回されるから、人は次なるステップに進めない。次の地球を担うのは、残り時間にとらわれぬ、我々ネクロオーバーなのだ!」

■運命のガイアメモリ

期は熟した。克己のネクロオーバー計画が実行される時が来たのだ。財団Xが、<Museum>の開発したガイアメモリを更に昇華させた次世代型ガイアメモリ<TypeⅡ>の開発に成功したという。国際特務調査機関の捜査員としてその内部に入り込んでいた美樹の情報だ。美樹はマリア・S・クランベリーを名乗り、機関が持つ膨大なコネクションを利用して、財団Xの調査を行っていた。<T2>と呼ばれる新たに開発されたガイアメモリはAtoZの26本が存在する。このすべてを手に入れられたら——。

風都タワーの見えるとあるビルの屋上。そこはかつて、少年の頃の克己が大好きだった、あのコンサートホールの屋上だ。
「計画遂行のこの場所かここか。運命めいたものを感じるよ」
苦笑する克己の言葉に目を細め、美樹は風都の空を見上げながら淡々と計画の段取りを確認していく。
「いい?克己。今夜定刻どおり、財団の特別輸送ヘリがこの上空を通過する。計算どおりいけば、その瞬間を狙って輸送中のT2を一気に手に入れることができるはずよ。いけるわね、克己」
「愚問だよプロフェッサー。エクスビッカーを起動させるためには、その程度のこと、汗をかくうちにも入らない」
<エクスビッカー>。それは、美樹が手に入れた<Museum>から財団への報告書の中に添付されたエクストリーム理論の資料に基づき、彼女が造り上げたガイアメモリの巨大なマルチマキシマムドライブシステムの事である。26のメモリを同時にドライブすることで放出される巨大なガイアフォースをエターナルウェーブに転換し、人間を瞬時にネクロオーバー化させる魔の光線武器。T2ガイアメモリを手に入れた後、都市の中央部に位置する風都タワーを占拠、タワーを媒介として風都全土にエターナルウェーブを散布する。風都市民をすべて生ける屍にした暁には、日本全土、そして世界へ——。

「最高のプレゼントだよ。こんなに嬉しいのは、あの日退院して風都を歩けた時以来か。最も、あれがきっかけで俺はこんなになっちまったワケだがな、あはははは!」
美樹は一瞬表情を曇らせるが、何かを吹っ切るかの様に克己を見据える。
「時間よ、克己」
「ああ、いってくるぜ。プロフェッサー・マリア。仲間たちを待たせちゃ悪い」
駆け出す克己の背中を見て、美樹の頬に一筋の涙がつたった。暖かくもなく、冷たくもない、温度のない涙だった。
今の克己の姿は、あの頃の克己よりも生き生きしているのかもしれない。生ける屍が生きる道を、その答えを、彼なりに見つけたのだ。
私は、修羅の鬼に堕ちた。
しかし私は、わが子が望むものはなんだって差し出してあげるのだ。それが息子への、私の愛のかたち。
息子は「存在する」ということで、私に愛をくれる。私は、克己が「ここにいる」以上、それに応え、せいいっぱいの愛を注ぐのだ。きっといつか、あの太陽が戻ってくるその日まで。かあさん、と、呼んでくれるその日まで。マリア・S・クランベリー。上等じゃないか。私はその日まで、マリアとして生きていく。大道美樹に戻るのは、それからだ。

美樹はバッグからあのオルゴールを取り出し、ゆっくりとノブを回した。
見上げた上空で、大きな爆発がおこった。キラキラと四散する、25個の流れ星。
「きれい」
美しい旋律にのって、小さな流れ星たちは風の都の中に、きらきらと吸い込まれていった。



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